甲状腺
甲状腺の位置と大きさ
甲状腺は首の前部、のどぼとけのすぐ下に位置し、重さが16〜20g、大きさが縦4.5cm、横4cmの内分泌臓器です。 正面から見ると蝶の形に似ています。
甲状腺の役割
甲状腺は、甲状腺ホルモン(T3、T4)というホルモンを産生し血中に分泌しています。甲状腺ホルモンは全身の臓器や細胞に作用し、生命活動の維持に役立っています。全身の代謝を高めるといったイメージですが、主に3つの役割があります。
・糖や脂質を分解してエネルギーを産生する。
・交感神経を刺激し、体温、脈拍、血圧、発汗、胃腸の蠕動運動を調節する。
・脳・神経・骨の発育を促進する。
甲状腺と下垂体の関係
甲状腺は脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって甲状腺ホルモン分泌の調節を受けています。甲状腺の異常によって、血中の甲状腺ホルモンが増えたり減ったりすると、下垂体はTSH産生を逆に減らしたり、増やしたりして、体内の甲状腺ホルモンを一定に保とうとします。また、甲状腺が正常だとしても脳下垂体に異常が起こると、結果として甲状腺ホルモンの分泌も亢進・低下し、血中の甲状腺ホルモンに異常が起こることがあります。
甲状腺中毒症
血中の甲状腺ホルモンが増えて体重減少、全身倦怠感、手のふるえ、動悸、息切れ、脈が速くなる、暑さに耐えられないといったような症状をきたす状態を甲状腺中毒症と言います。甲状腺中毒症の原因は、甲状腺がホルモンを過剰に産生する「甲状腺機能亢進症」と、甲状腺の破壊による「破壊性甲状腺炎」に大別されます。
甲状腺機能亢進症
バセドウ病
甲状腺機能亢進症の中で最も多いのが、バセドウ病です。TSH受容体抗体(TRAb)やTSH刺激抗体(TSAb)の刺激によって、甲状腺ホルモンの合成・分泌が亢進します。
機能性結節性甲状腺腫
甲状腺の結節(しこり)がホルモンを過剰に分泌します。
TSH産生腫瘍
脳下垂体の腫瘍が、TSHを過剰に分泌した結果、甲状腺機能亢進症をきたします。
妊娠性甲状腺機能亢進症
妊娠初期(10~15週)に胎盤の成長に伴って分泌される性腺刺激ホルモン(絨毛性ゴナドロトピン:hCG)が甲状腺を刺激して、甲状腺機能亢進症をきたします。hCGは妊娠中期になると自然に低下するため、甲状腺機能亢進もそれに伴って改善します。
破壊性甲状腺炎
何等かの原因によって、甲状腺ホルモンを産生する細胞が破壊されて甲状腺内に蓄えられていた甲状腺ホルモンが血液中に放出されることで、甲状腺中毒症状を引き起こします。無痛性甲状腺炎と亜急性甲状腺炎が代表的です。
無痛性甲状腺炎
バセドウ病や橋本病などの自己免疫性疾患を基礎として、ストレスや、ある種の薬剤をきっかけに発症します。通常は3ヵ月程度で自然軽快します。
亜急性甲状腺炎
風邪などのウイルス感染をきっかけに発熱と甲状腺部の痛みを伴って発症します。軽症の場合は解熱薬などの対症療法だけで軽快します。症状が強い場合はステロイド薬を内服します。いずれにしてもやはり3ヵ月程度で軽快します。
薬剤性甲状腺中毒症
薬剤の副作用による甲状腺中毒症です。代表的なものとしては、抗不整脈薬のアミオダロンやC型慢性肝炎の治療に使うインターフェロンαが挙げられます。甲状腺機能亢進症にも破壊性甲状腺炎にもなり、それによって治療方法が異なるため見極めが大事です。その他、稀ですがヨードを含んだ薬剤(造影剤、うがい薬)によって甲状腺中毒症が起きることもあります。
橋本病
甲状腺に慢性的に炎症が起こる病気で慢性甲状腺炎とも呼ばれ、自己免疫性疾患の一つです。炎症の結果、甲状腺ホルモンのバランスが悪くなる場合があります。成人女性の約7~8人に1人が橋本病の素質をもっています。橋本病における甲状腺機能は、6割は正常ですが、4割は低下または一時的に上昇することがあります。
橋本病の症状
橋本病は概ね甲状腺が腫れる病気ですが、加えて、甲状腺ホルモンが低下した場合は以下のように様々な症状をきたします。
- 甲状腺全体の腫れ
- 倦怠感
- 食欲不振
- 寒がり
- 便秘
- 皮膚の乾燥
- 顔や手足の浮腫み
- 声のかすれ
- 抜け毛、薄毛
- 不妊、流産
橋本病の診断と検査
- びまん性甲状腺腫大
- 超音波で甲状腺のエコー輝度低下
- 甲状腺刺激ホルモン(TSH)高値
- 橋本病関連抗体価陽性
超音波検査で甲状腺の腫大と、組織の炎症具合を把握した上で、血液検査でTSHと甲状腺ホルモン(FT3、FT4)を調べます。脳下垂体がTSHを分泌し、この刺激によって甲状腺がFT3、FT4はTSHの刺激(調節)を受けて、甲状腺から産生されます。
橋本病の治療
甲状腺ホルモンの補充療法を行います。最もよく使う薬が「レボサイロキシン(一般名)」というホルモンです。少量から始め、TSHが正常値になるまで増量していきます。
妊娠と甲状腺
妊娠すると甲状腺ホルモン必要量は約1.5倍に増えます。甲状腺機能低下症は、不妊や流産、早産、妊娠高血圧症候群などのリスクになるため、妊娠前から甲状腺機能を正常に保つことが重要です。
甲状腺機能の管理は、TSHを指標に行います。
- 妊娠前~妊娠初期(13週)はTSH<2.5μU/ml、妊娠中期以降(14週~)はTSH<3.0μU/mlが目標です。
- TSH値が2.5μU/ml以上であれば、甲状腺ホルモン薬(レボサイロキシン)を服用します。妊娠中、授乳中の服用も問題ありません。
- TSH値が2.5μU/ml未満でも、甲状腺自己抗体(抗TPO抗体、抗サイログロブリン抗体)が陽性の場合は、甲状腺ホルモン薬を服用することもあります。
- 妊娠したら4~6週で受診し、甲状腺機能をチェックしましょう。30週前後にも甲状腺機能をチェックします。
分娩後
- 分娩すると、甲状腺ホルモンの必要量は妊娠前の状態に戻ります。そのため、分娩後は甲状腺ホルモン薬を減量または中止することが多いです。
- 産後1〜2ヶ月後くらいに無痛性甲状腺炎を起こすことがあり、産後の体調不良の原因になることがあります。このため、産後の定期的なフォローも大事です。