先端巨大症
先端巨大症とは?
先端巨大症(Acromegaly)は、成長ホルモンの過剰分泌により引き起こされるまれな内分泌疾患です。成長ホルモンの過剰な分泌により、骨や軟部組織(筋肉。脂肪や皮膚など)が異常に成長し、手足や顔に特徴的な変化が現れます。放置すると、糖尿病、心血管疾患、呼吸器障害、がんなどを合併し、生命予後に影響を与える可能性があります。
先端巨大症の発症率は人口10万人あたり7人未満でまれな病気ですが、きちんと診断を受けていない潜在的な患者さんが多いと言われています。最近の研究で人口10万人あたり13人以上と報告しているものもあります。通常40~50歳代に見られ、男女の間で発症率に大きな差はありません。主な原因は脳腫瘍(下垂体腺腫)であり、これが成長ホルモンを過剰に分泌します。小児期に発症すると下垂体性巨人症と呼ばれますが、成人発症の先端巨大症とは異なります。
症状
先端巨大症の特徴的な症状(外見の変化)はゆっくりと現れるため、早期診断が難しいことがあります。
外見の変化:顎や鼻、額が目立つようになり、手足のサイズが大きくなります。指輪や靴が合わなくなります。舌が大きくなることもあります。
関節痛:骨や軟部組織の肥大が進むにつれ、関節痛や筋力の低下が見られることがあります。変形性関節症や手根管症候群など関節の病気が現れます。
頭痛と視力障害:下垂体腺腫が大きくなると、神経を圧迫し、頭痛や視野の異常が発生することがあります。
内臓の肥大:心臓や肝臓などの臓器が大きくなります。
他に倦怠感、多汗(特に寝汗)、女性では月経異常が現れます。
さらに、先端巨大症は高血圧、糖尿病、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群、がん(特に大腸がんと甲状腺がん)など、複数の合併症を伴うことがあります。
診断
先端巨大症の診断は、外見的特徴と症状に基づいて行われますが、血液検査と画像検査が必要です。
主症候:手足が大きい、特徴的な顔貌(鼻・唇の肥大、おでこの盛り上がり、下顎の突出)、舌が大きい
血液検査:成長ホルモン(GH)とインスリン様成長因子-1(IGF-1)の血中濃度を測定します。GHは日内変動があるため、75g経口ブドウ糖負荷試験が行われます。先端巨大症の患者では、ブドウ糖を摂取してもGHが正常に抑制されません。
画像検査:下垂体の腫瘍の存在を確認するため、MRIまたはCT検査が行われます。腫瘍の大きさや位置を確認し、治療の計画に役立てます。
主症候3つのうちいずれか1つ以上を満たし、血液検査でGH分泌過剰とIGF-1高値があり、画像検査で下垂体腫瘍を認める場合、先端巨大症と診断されます。
治療
先端巨大症の治療の目的は、GH分泌の正常化、腫瘍の縮小、症状の軽減、および合併症の予防です。治療法は、患者さんの状態や腫瘍の大きさ、進行度に応じて選択されます。
1. 手術
手術が最も一般的で、経蝶形骨洞手術(鼻から下垂体にアクセスする手法)が主に行われます。手術前に薬を使って腫瘍を小さくすることもあります。手術が成功し、「寛解」(病気が完全に治癒したわけではないが、症状や異常値がなく安定している状態)となっても定期的に検査をして経過を見ます。
2. 薬物療法
手術後に腫瘍が残存する場合や再発した場合、合併症などで手術の危険性が高い場合は、薬物療法や放射線療法を行います。主に次のような薬が使用されます:
オクトレオチド、ランレオチド(ソマトスタチン受容体作動薬):成長ホルモンの分泌を抑える薬です。皮下注射あるいは筋肉注射して投与します。
ペグビソマント(成長ホルモン受容体拮抗薬):GHが細胞に結合するのを防ぎます。
カベルゴリン(ドーパミン作動薬):IGF-1の上昇が軽度の場合使用されます。
3. 放射線治療
手術や薬物療法で効果が得られない場合、放射線治療が行われます。放射線治療後に下垂体機能低下症となり、長期的に成長ホルモン以外の下垂体ホルモンの補充が必要になることがあります、
まとめ
先端巨大症は、成長ホルモンの過剰分泌によって引き起こされるまれな病気です。進行がゆっくりで、症状がすぐには現れないこともあるため、早期診断と適切な治療が重要です。治療を行わないまま放置すると合併症を引き起こし、生命予後に悪影響を及ぼす可能性があるため、早めの治療が推奨されます。
手足の肥大や顔の変化など、気になる症状があれば、当院にご相談ください。
<参考文献>
間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版
Colao A, Grasso LFS, Giustina A, et al. Acromegaly. Nat Rev Dis Primers. 2019;5(1):20.
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